軽貨物ドライバーとして働き始めると、「月収40万円」「日給2万円」といった数字を目にすることがあります。
しかし、軽貨物の仕事で表示される金額は、多くの場合、会社員の給料ではなく事業の「売上」です。
売上からガソリン代や車両費などの経費を支払い、さらに税金や社会保険料を負担すると、実際に自由に使える金額は少なくなります。
そのため、売上だけを見て「会社員より稼げる」と判断するのは危険です。
この記事では、個人事業主として軽貨物で働く場合の売上・所得・手取りの違いを、具体例を使って分かりやすく解説します。
※税金や社会保険料は、所得、家族構成、自治体、申告方法などによって変わります。本記事の金額は目安としてご覧ください。
軽貨物の売上と所得は別物
最初に理解しておきたいのが、売上と所得の違いです。
- 売上:配達によって受け取った報酬
- 経費:仕事をするために使った費用
- 所得:売上から必要経費を差し引いた金額
- 手元に残るお金:所得から税金や社会保険料などを支払った後の金額
基本的な関係は次のとおりです。
売上-必要経費=所得
国税庁も、事業所得を「総収入金額-必要経費」で計算すると説明しています。
例えば、月の売上が40万円あり、必要経費として10万円かかった場合、所得は30万円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上 | 400,000円 |
| 必要経費 | 100,000円 |
| 所得 | 300,000円 |
売上40万円を、そのまま会社員の給料40万円と比較することはできません。
軽貨物ドライバーは、売上の中から仕事に必要な費用を自分で負担するからです。
軽貨物の「月収」は売上を指すことが多い
軽貨物の求人や募集広告では、次のような表現が使われることがあります。
- 月収40万円以上可能
- 日給2万円
- 月商50万円
- 高収入ドライバー
この金額が売上なのか、経費を差し引いた後の所得なのかは必ず確認しましょう。
特に「月商」は、基本的に経費を差し引く前の売上を意味します。
業務委託の軽貨物ドライバーには、会社員のような給料明細がなく、原則としてガソリン代や車両維持費も自分で負担します。
売上が高く見えても、走行距離や委託手数料、車両費が大きければ、思ったほどお金が残らないことがあります。
軽貨物で発生する主な経費
軽貨物の所得を計算するには、仕事にかかった経費を把握する必要があります。
代表的な経費は次のとおりです。
- ガソリン代
- 車両の購入費またはリース代
- 任意保険料
- 貨物保険料
- 車検代
- 自動車税
- オイル交換代
- タイヤ代
- 修理代
- 駐車場代
- 高速道路料金
- スマートフォン料金
- 配達用品代
- 会計ソフト代
- 振込手数料
- 業務委託会社へ支払う手数料
国税庁では、売上を得るために直接かかった費用や、その年に発生した業務上の費用を必要経費にできるとしています。
ただし、支払ったものを何でも経費にできるわけではありません。事業との関係を説明できることが必要です。
私生活でも使うものは全額経費とは限らない
軽バンやスマートフォンを仕事と私生活の両方で使っている場合、原則として事業で使った部分だけが経費になります。
これを家事按分といいます。
例えば、月額10,000円のスマートフォン料金を仕事で60%使用している場合、経費にする金額の一例は次のようになります。
10,000円×60%=6,000円
車両に関する費用も、仕事と私生活で共用している場合は、走行距離や使用日数などの合理的な基準で分けます。
按分割合を感覚だけで決めるのではなく、業務日報や走行距離などの記録を残しておくことが大切です。
月の売上33万円だった場合の所得例
ここからは、軽貨物で月33万円を売り上げた場合を考えてみます。
仮に5時間11,000円のAmazon Flexブロックで月30回稼働すると、売上は次のようになります。
11,000円×30回=330,000円
この売上から、以下の経費が発生したと仮定します。
| 経費 | 月額の例 |
|---|---|
| ガソリン代 | 35,000円 |
| 車両費・ローンまたは減価償却費 | 25,000円 |
| 任意保険・貨物保険 | 12,000円 |
| オイル・タイヤ・車検などの積立相当 | 12,000円 |
| スマートフォン・通信費の事業分 | 5,000円 |
| 配達用品・その他 | 3,000円 |
| 合計 | 92,000円 |
この場合、経費を差し引いた所得は次のとおりです。
330,000円-92,000円=238,000円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 月の売上 | 330,000円 |
| 月の必要経費 | 92,000円 |
| 経費差引後の所得 | 238,000円 |
売上は33万円でも、経費を引いた段階では約23万8,000円です。
さらに、ここから所得税、住民税、国民健康保険、国民年金などの負担を考える必要があります。
なお、実際の経費は車両の状態、燃費、走行距離、保険料、稼働地域などで大きく異なります。
売上から経費を引いた所得も「手取り」ではない
所得が23万8,000円だからといって、その全額を生活費に使えるわけではありません。
個人事業主には、主に次の負担があります。
- 所得税
- 復興特別所得税
- 住民税
- 国民健康保険料
- 国民年金保険料
- 消費税の納税が必要な場合は消費税
- 個人事業税の対象になる場合は個人事業税
会社員の場合、税金や社会保険料が給与から天引きされます。
一方、個人事業主は報酬がそのまま口座へ振り込まれることが多いため、一時的にはお金が多く残っているように見えます。
しかし、その中には後で支払う税金や社会保険料も含まれています。
振り込まれた金額をすべて使ってしまうと、納付時期になって資金が足りなくなる可能性があります。
所得と課税所得も同じではない
所得税は、売上や事業所得に税率をそのまま掛けて計算するわけではありません。
大まかな流れは次のようになります。
売上-必要経費=事業所得
事業所得-所得控除など=課税所得
課税所得×税率-控除額=所得税の基礎となる金額
所得控除には、基礎控除、社会保険料控除、扶養控除などがあります。
そのため、同じ事業所得でも、家族構成や社会保険料、その他の所得によって税額は異なります。
所得税は課税所得に応じて税率が上がる仕組みです。単純に「所得の一律何%」とは計算できません。
青色申告特別控除が使える場合もある
青色申告の承認を受け、定められた要件を満たすと、青色申告特別控除を利用できます。
控除額は条件によって、65万円、55万円または10万円です。
65万円の控除を受けるには、複式簿記による記帳などに加え、期限内申告とe-Taxによる申告、または一定の電子帳簿保存などの要件があります。
青色申告特別控除は、実際にお金を支払う「経費」とは異なります。
例えば65万円の控除を受けても、銀行口座から65万円が出ていくわけではありません。税金を計算する際の所得を圧縮できる制度です。
ここは、実際の現金支出と税務上の控除を分けて考える必要があります。
車両購入費がその年に全額経費になるとは限らない
軽貨物で特に注意したいのが、軽バンの購入費です。
仕事用に車を買っても、購入代金を必ずその年に全額経費にできるわけではありません。
一定額以上の車両は、原則として使用できる期間に分けて減価償却します。
例えば車両を現金一括で購入した場合、口座からは一度に大きなお金が出ていきます。しかし、税務上の経費は複数年に分かれることがあります。
反対にローンで購入した場合、毎月のローン返済額がそのまま全額経費になるとも限りません。
このため、
- 実際に口座から出ていった金額
- 確定申告で必要経費にする金額
が一致しない場合があります。
軽貨物における「手元に残るお金」を考えるときは、帳簿上の所得だけでなく、実際の資金の動きも確認する必要があります。
消費税の扱いにも注意
消費税の納税義務は、売上がいくらかだけで単純に決まるものではありません。
原則として、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の場合は免税となる制度があります。ただし、特定期間の判定や各種例外があります。
また、適格請求書発行事業者、いわゆるインボイス発行事業者として登録している場合は、課税売上高が1,000万円以下でも原則として消費税の申告が必要です。
報酬が「税込」で表示されている場合でも、その消費税相当分を必ず自由に使えるとは限りません。
自分が免税事業者なのか課税事業者なのか、インボイス登録をしているかによって扱いが変わるため、事前に確認しておきましょう。
本当の手残りを把握する計算方法
軽貨物で実際に残る金額を把握するには、毎月次の順番で計算すると分かりやすくなります。
売上-実際に支払った事業経費-税金や社会保険料の積立-車両修理などの積立=生活に使える金額
税務上の正確な「所得」と、日常で使える「手残り」は、分けて管理するのがおすすめです。
確認する項目は次のとおりです。
- 月の売上
- ガソリン代
- 車両費
- 保険料
- 整備費
- 通信費
- その他の経費
- 税金の積立
- 社会保険料
- 車検やタイヤ交換への積立
売上だけでなく、走行距離も記録しておくと、車両コストの把握に役立ちます。
同じ1万1,000円の売上でも、60km走った日と185km走った日では、燃料代や車両への負担が違います。
軽貨物では、時間単価だけでなく走行距離も含めて利益を考えることが重要です。
税金用のお金を別口座へ移しておく
売上が振り込まれたら、税金や車両維持費として残すお金を別口座へ移しておく方法があります。
事業用口座の残高が多いと、すべて使えるお金のように感じてしまいます。
しかし、軽貨物では後から次のような大きな支払いが発生します。
- 所得税
- 住民税
- 国民健康保険料
- 国民年金保険料
- 消費税
- 車検
- タイヤ交換
- 車両修理
売上が好調な月でも、そのまま生活水準を上げるのではなく、一定額を残しておく方が安全です。
特に車両が故障すると、修理費がかかるだけでなく、稼働できない期間の売上も失います。
軽貨物の収入を比較するときの注意点
求人や他のドライバーの収入を見るときは、売上だけでなく次の条件も確認しましょう。
- 稼働日数
- 一日の拘束時間
- 走行距離
- ガソリン代
- 委託手数料
- 車両リース代
- 保険料
- 税込か税抜か
- 経費を差し引く前か後か
- 税金や社会保険料を含めているか
月商50万円でも、月25日以上の長時間稼働で、車両リース代や手数料が高ければ、必ずしも条件が良いとは限りません。
反対に売上が少し低くても、短時間かつ短距離で終わる仕事なら、時間と経費を含めた効率が良い場合があります。
「いくら売り上げたか」だけでなく、「何時間使い、いくら経費がかかり、最終的にいくら残ったか」で比較することが大切です。
まとめ
軽貨物の売上と所得は同じではありません。
基本的な計算は次のとおりです。
売上-必要経費=所得
さらに所得から税金や社会保険料などを負担するため、売上の全額を生活費として使うことはできません。
軽貨物ドライバーが収入を管理するときは、次の数字を分けて考えましょう。
- 配達によって得た売上
- 仕事にかかった必要経費
- 税金を計算する基礎になる所得
- 税金や社会保険料を支払った後の手残り
売上だけを見ていると稼げているように感じても、車両費や将来の税金まで含めると、実際の手残りが少ないこともあります。
毎月の売上、経費、走行距離を記録し、自分の仕事で本当にいくら残っているのかを確認することが、軽貨物を長く続けるうえで重要です。


